レグが叫ぶ「度し難い(どしがたい)」という言葉。辞書で調べても「救いがたい」という説明だけで、なぜレグがこの言葉を使うのか、作中でどんな意味を持つのか、その深い部分が見えてこない。
実はこの言葉は、単なる口癖ではなく、アビスの恐怖と物語の本質を指し示す重要な装置として機能している。
本記事では、詳細な調査と作中シーンの分析に基づき、「度し難い」の意味と語源、作者つくしあきひと先生の創作意図、レグが使用した全8シーンの詳細、リコの母・ライザとの繋がりまで徹底解説する。
オーゼン戦の名シーンはもちろん、ナキカバネの捕食、リコの腕の切断、ボンドルドへの沈黙の意味など、各シーンの背景にある深い意味が明確に理解できる。
「度し難い」は、アビスが生命の尊厳を侵害する瞬間を指し示す、物語の核心に繋がる鍵なのだ。
度し難い(としがたい・どしがたい)の意味
「度し難い(どしがたい)」は、現代日本語では「どうしようもない」「救いがたい」「許しがたい」という意味で使われる言葉だ。読み方は「どしがたい」が一般的だが、「としがたい」とも読まれる。
📖 語源は仏教用語「済度(さいど)」
この言葉の語源は仏教用語の「済度(さいど)」にある。「度する」とは、仏や菩薩が迷い苦しんでいる人間を救済し、悟りの彼岸へと導くことを意味する。つまり「度し難い」は、「救うことができない」「教え導くことができない」という意味になる。
道理を説き聞かせてもわからせようがない、救いようがない状態を指す言葉として、古くから使われてきた。
🎭 メイドインアビスにおける特別な意味
メイドインアビスの作中では、「度し難い」は単なる罵倒や感嘆詞ではない。主人公レグがこの言葉を発する時、それは彼が自身の理解や倫理観を根本から揺るがすような、あまりにも残酷で不可解な現実に直面した際の、深刻な認知的不協和を示している。
この言葉は**アビスの恐怖を指し示す「主題的コンパス」**として機能している。レグが「度し難い」と口にするのは、生命の尊厳が侵害される瞬間、死者の尊厳が冒涜される光景、友人を救うために残酷な選択を迫られる状況、そして人間が非人道的な実験によって異形の姿へと変えられる物語など、極めて深刻な場面に集中している。
つまり、この言葉はアビスが単に生命を奪うだけでなく、生命そのものの在り方や尊厳を歪め、汚染する場所であることを示すための、物語上の重要な装置なのだ。
レグの口癖「度し難い」の誕生秘話
作者のつくしあきひと先生は、レグのキャラクター作りにおいて、特徴的な決めゼリフを持たせたいと考えていた。
✨ 創作意図
つくし先生が語った創作の背景:
- 『ジョジョの奇妙な冒険』の承太郎が使う「やれやれだぜ」のような、印象的な決めゼリフが欲しかった
- リアクションとして自然に使える言葉を探していた
- 「アビス」自体が「奈落」など日本的な言葉が多いため、仏教的な響きを持つ言葉を採用することにした
- キャラクターの個性を印象づけるために、日常的には使わない表現を選んだ
こうして、「度し難い」という言葉がレグの口癖として採用された。この言葉は、レグというキャラクターの知的さと、アビスの恐怖に直面した時の感情を効果的に表現する言葉として機能している。
レグが「度し難い」を使った名シーン一覧




レグは作中で「度し難い」という言葉を複数回使用している。それぞれのシーンには、アビスの本質的な恐怖が凝縮されている。
🔵 オーゼン戦での「度し難いぞオーゼン!!!!」
最も有名なシーンが、監視基地でオーゼンと対峙した場面だ。オーゼンの残酷な訓練方法と、リコの出生にまつわる衝撃的な真実を告げられた際、レグは「度し難いぞオーゼン!!!!」と叫んだ。この名台詞は、作品を象徴するセリフとして多くのファンに記憶されている。
🦴 ナキカバネの捕食シーン(漫画2巻10話/アニメ1期4話)
レグが初めて「度し難い」を口にしたのが、この場面だ。探窟家の亡骸を、ナキカバネという生物が無感情に捕食している光景を目の当たりにした時、レグはこの言葉を発した。
アビスにおける死の冷徹で非情な現実を突きつけられた瞬間であり、レグが何を「自然の秩序からの逸脱」と見なすかの基準点となった重要なシーンだ。
💔 リコの腕の切断(漫画3巻19話/アニメ1期10話)
タマウガチの毒に侵されたリコを救うため、レグは彼女の腕を自らの手で折り、切断するという苦渋の決断を迫られた。この時の「度し難い」は、逃れようのない過酷な状況下での極度の精神的苦痛と無力感を表している。
ここで「度し難い」のは、その行為自体が持つ残酷な必要性だ。友人を救うために友人を傷つけなければならないという、アビスが突きつける容赦ない選択の重さが、この一言に込められている。
😢 ナナチの過去を聞いたシーン(漫画3巻23話/アニメ1期13話)
ボンドルドの非人道的な実験により、ミーティが不死の苦しみを抱える成れ果てと化した経緯を、ナナチから聞かされた場面。レグは明確な道徳的判断として「度し難い」と評した。
これは、他者の意図的な行為に対して向けられた重要な使用例だ。ボンドルドの計算され尽くした非人間的な残酷さに対する強い拒絶を示している。
👤 クオンガタリに寄生された探窟家(漫画4巻27話/劇場版『深き魂の黎明』)
クオンガタリという生物に内部を巣食われ、空っぽになった探窟家の亡骸と対峙した際の反応。人間の身体が完全に冒涜され、異形の巣と化したことへの生理的嫌悪と恐怖が表れている。
ここでは死そのものよりも、人間の尊厳が完全に破壊された状態が「度し難い」とされている。
⚔️ 自身の腕の切断(漫画4巻30話/劇場版『深き魂の黎明』)
ボンドルドとの戦闘中に自身の腕が切断された際、レグは痛みと苛立ちから、珍しく自分自身に向けて「度し難い」と発言した。アビスの脅威と対峙する上での自身の脆弱性と、その代償の大きさを痛感した瞬間だ。
🍳 ナナチの手料理(アニメ1期11話・コメディシーン)
ナナチが作った悪名高い不味さの料理を食べた際、レグはユーモラスな文脈で「度し難い」を使った。この軽妙な使用があるからこそ、真の恐怖に直面した際の言葉の重みが際立つ。
この事例は、「度し難い」という言葉がレグの語彙の一部として、深刻でない場面でも使われうることを示す重要な対比となっている。
🐾 メイニャへの危機感(漫画6巻41話/アニメ2期『烈日の黄金郷』第5話)
ボンドルドの愛玩動物メイニャが、前線基地の力場によって押し潰されそうになるのを目撃した場面。アビスの力場という、非人格的で環境的な脅威に対して使われた点が特徴的だ。アビスの無慈悲さが、か弱い生物にさえ無差別に牙を剥くことへの危機感を示している。
ライザから受け継いだ言葉:口癖の起源と物語上の意味
「度し難い」という口癖は、実はレグのオリジナルではない。この言葉は、リコの母親であり伝説の白笛探窟家であるライザの口癖だった。
🔗 オーゼンの反応が示す繋がり
ライザの師であったオーゼンは、レグがこの言葉を使った際に、かつての弟子を思い起こさせる反応を見せている。この言語的な繋がりは、レグが記憶を失う以前の過去を解き明かす上で最も重要な手がかりの一つだ。
レグがライザと長期間にわたり、極めて近しい関係にあったことを強く示唆している。彼が単なる遺物ではなく、リコが追い求める母親に直接繋がる存在であることを物語っている。
🌊 世界観の共有
この口癖の共有は、単に共に過ごした時間の長さを意味するだけではない。それは、世界に対する視点、すなわち世界観の共有を示唆している。
「殲滅卿」の異名を持つライザは、その絶大な戦闘能力と不屈の精神で知られていた。彼女が「度し難い」と口にしたであろう状況は、アビスの最深層で遭遇する極限の困難や筆舌に尽くしがたい恐怖であったはずだ。
レグがその言葉を受け継いでいるという事実は、彼が単なる同行者ではなく、ライザと共にアビスの「度し難い」現実を目撃し、その価値観を形成するに至ったパートナーであった可能性を示唆する。それは記憶が失われた後も、彼の核となる人格に深く刻み込まれた、共有された世界観の残滓なのだ。
ボンドルドと「度し難い」の関係
ボンドルドというキャラクターは、ファンの間で「度し難い」の象徴として語られることが多い。しかし、作中でのレグとボンドルドの関係は、興味深い構造を持っている。
❓ レグはボンドルドに対して「度し難い」と言ったのか?
結論から述べると、作中で直接的な発言は確認されていない。レグがボンドルド本人に向けて「度し難い」と発したという記録は存在しないのだ。
ただし、ナナチからボンドルドの所業を聞いた時点(漫画3巻23話)で、レグはその行為を「度し難い」と評価している。つまり、ボンドルドの邪悪さについては、すでにこの言葉で断罪しているのだ。
🔇 なぜ直接対峙時には言わなかったのか?
この「沈黙」は、偶然や省略ではなく、計算された物語上の選択であると考えられる。
レグが「度し難い」という言葉を発するのは、理解を超えた事象を前にして衝撃を受け、それを何とか言語化しようと試みる瞬間だ。しかし、ボンドルドとの戦いに臨む時点で、レグは既にナナチから彼の所業を聞かされ、その邪悪さの本質を完全に理解している。
衝撃と理解の段階は終わり、もはや言葉による断罪は不要だった。残されたのは純粋な物理的排除という行動のみ。この「物語上の沈黙」は、言葉を発するよりも遥かに強力な非難となっている。
ボンドルドの行為は、もはや「救い難い」という評価を下す段階すら超越しており、ただ殲滅すべき絶対的な脅威として認識されている。レグの容赦ない戦闘行為そのものが、言葉に代わる、あるいは言葉を凌駕する最大限の糾弾として機能しているのだ。
👹 「度し難い」概念の体現者
ボンドルドは、ファンコミュニティや公式の場でも「度し難い」と関連付けられることが多い。
公式のゲームアプリとのコラボレーション企画では、ボンドルドの性能が強すぎたことを「度し難い状態となっておりました」と公式に表現されている。また、作者自身を指して「つくし卿は度し難い」と評されることもある。
ボンドルドというキャラクター自体が、「度し難い」という概念を体現する存在として、作品内外で認識されているのだ。
メイドインアビス余談
🌑 ABYSS(アビス)の意味
作品タイトル「Made in ABYSS」の意味を見てみよう。
ABYSSという英単語は、深い淵、底知れない穴、深い底という意味を持つ。**Made in ~**は「Made in Japan」などに使われる「~製」という意味だ。
作中には「奈落の~」というワードがよく出てくる。つまり「Made in ABYSS」を直訳すると「奈落の底製」という意味になる。アビスという深淵から生まれた物語であることを、タイトルが示している。
🎵 奈落の至宝(オーバード)の意味
📿 オーバードとは何か
作中で「奈落の至宝」と呼ばれるものが、「オーバード」という名で語られる。これは、アビスにある歴史的遺物の中でも最も希少で、公にされないレベルの価値を持つものを指す都市伝説的な呼称だ。
レグ自身も、この「奈落の至宝(オーバード)」の一つであると強く示唆されている。
🎼 語源はフランス語の音楽用語「aubade(オーバード)」
「オーバード」の語源は、フランス語の音楽用語「aubade(オーバード)」だ。これは「朝の歌」「夜明けの曲」を意味する言葉で、夜明けと共に別れなければならない恋人たちを歌った詩や楽曲を指す。
夕べの音楽である「セレナーデ」や夜の音楽である「ノクターン」と対をなす概念として、音楽の世界で使われてきた言葉だ。
🌅 「オーバード」が示す物語の深いテーマ
作者がレグの正体に「オーバード」という言葉を選んだことは、極めて洗練された主題的なメタファーとして機能している。
レグがリコの前に現れたことは、彼女がアビスの深淵へと挑む、真の冒険の「夜明け」を告げる出来事だった。しかし、「オーバード」が本質的に「別れの歌」であることを考慮すると、その意味は一層深まる。
リコは自らの「夜明け」を受け入れることによって、故郷、友人、そして地上世界のすべてと、決定的に別れなければならない。アビスの上昇負荷という呪いは、この別れが永遠のものであることを保証している。
つまり、「オーバード」という名称は、『メイドインアビス』の物語の根幹をなす悲劇性、すなわち「発見の光へと進む一歩一歩が、同時に帰るべき場所からの永遠の離別である」というテーマを完璧に凝縮している。それは、後戻りの許されない前進がもたらす、美しくも残酷な別れの歌なのだ。
よくある質問(FAQ)
- 「度し難い」の正しい読み方は?
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「どしがたい」が一般的だが、「としがたい」とも読む。作中では両方の読み方が使われている。
- 「度し難い」を使うキャラクターは誰?
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作中で口癖として使うのはレグのみ。元々はリコの母・ライザの口癖だった。レグがライザと過去に深い関係にあったことを示す重要な手がかりとなっている。
- レグはボンドルドに対して「度し難い」と言った?
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直接対峙時には言っていない。ナナチからボンドルドの所業を聞いた時点(漫画3巻23話)で、その行為を「度し難い」と評価している。直接対峙時の沈黙は、言葉による断罪を超えた、殲滅すべき脅威として認識していたことを示す物語上の演出だ。
- なぜレグはこの言葉を使うの?
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ライザから受け継いだ口癖であり、アビスの残酷さや理解を超えた現実に直面した時に使う。単なる感嘆詞ではなく、生命の尊厳が侵害される瞬間を指し示す言葉として機能している。
- 「度し難い」の語源は?
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仏教用語「済度(さいど)」が由来。「度する」は救済すること、「度し難い」は救うことができない、教え導くことができないという意味。作者は作品に仏教的な響きを持たせるため、この言葉を採用した。
まとめ
「度し難い(としがたい・どしがたい)」は、メイドインアビスを象徴する重要な言葉だ。単なる口癖ではなく、アビスの本質的な恐怖や残酷さを指し示す「主題的コンパス」として機能している。
レグがこの言葉を使うたび、物語は生命の尊厳が侵害される瞬間、理解を超えた恐怖、そして救いようのない現実を描き出す。語源は仏教用語「済度」で、「救うことができない」という意味を持つ。作者つくしあきひと先生は、承太郎の「やれやれだぜ」のような決めゼリフとして、仏教的な響きを持つこの言葉を選んだ。
そして、この言葉がリコの母・ライザから受け継がれたものであることは、レグの失われた過去と、彼らの深い絆を示唆する重要な手がかりとなっている。メイドインアビスを楽しむ際は、「度し難い」という言葉がどのような場面で使われるかに注目してみよう。その一言が、物語の深いテーマを照らし出している。

